※ここは常に30年前の今頃を語るカテゴリイです。
トレンディドラマ
僕が上京した1989年あたりは、いわゆる「トレンディドラマ」が絶頂期になった時期でありまして、
「抱きしめたい」とか
「愛しあってるかい!」とか
「意外とシングルガール」とか
「同・級・生」とかがオンエアされていました。
まさにバブルですねえ。
とはいえ・・・
当時の僕は新宿の現実世界というものが面白すぎたせいで、いわゆる連続ドラマというものをほとんど視ていなかったのです。虚構より現実。そもそもサトーみたいなやつはドラマの中にはいないわけですしね(苦笑)。
しかしながら・・・
当時、僕というか、僕の友人がハマってしまったドラマが一つだけあったのです。今日はそれにまつわるお話です。
東京に大雪
30年前の冬は今年の冬と同様に暖冬でありました。しかし2月に入ると寒気団が襲ってきて
「2月1日深夜から都心で大雪。翌日の通勤に大きな影響」
と報じられたのです。それを聞いて千葉在住のジムモリソン男と、所沢在住のイケメンミズキは、僕の住処である新兼荘に泊まっていく事になりました。
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翌日。東京は大雪で真っ白に染まりました。
「おら!そろそろ起きろよ! すげえ雪だぜ!」
新兼荘から僅かに20センチ隣の家の、その極端に狭いベランダには、すでにこんもりと雪がつもっておりました。
「雪? それなら電車が動かないからもっと寝る」
「お前と違って都会人だから雪は苦手なんだよ」
二人はピクリともせず、実にいい加減に応えています。
「千葉と埼玉で何が都会人だよ。本物の都市生活者の俺は行くぜ。お前等は来年も代ゼミだな!」
「わかったよ。メロドラマ視たら行くよ」
「それじゃ昼過ぎじゃないかよ!」
僕は二人を置いて新兼荘を後にしました。
「炎の旅路」
フジテレビでは長きにわたり「東海テレビ」制作の「お昼のメロドラマ」を放送しておりました(1964~2016年!)。
そしてこの時期は「南条玲子主演」という、バブル期に似合わない、あまりにも地味すぎる三角関係愛憎ドラマを放送していたのです。まあ案の定と言いますか・・・僕はある日うっかりそれを見てしまったわけですな。
そこで僕はあまりに大袈裟なメロメロドラマにびっくりしまして
(特に「ナイーブな青年時代の竹内力」の演技が棒演技すぎて大ウケだった)
ビデオに撮ってみんなに視せたのです。
すると僕以上に、あのジムモリソン男&イケメンミズキがそのドラマにハマってしまいました。そして視はじめた時点で、もう話が最終回間際のクライマックスの頃でしたので、2人はもうメロメロの展開に夢中になってしまい、さらにはビデオ録画すら待ちきれないようになり、遂には、わざわざ新兼荘でリアルタイム鑑賞するようになっていったのです。
真っ白
ザク、ザク、ザク
新宿の住人達は雪に慣れていないのか、妙な格好でソロリソロリ歩いています。
『これじゃ転んで怪我する奴もいるわけだ』
さっき見たニュースを思い出しながら雪を踏みしめているうちに、僕はふとある事を思いつきました。
『高層ビルの上から街を見たら綺麗だろうなあ……』
僕は雪国といっていい福島出身でしたが、そもそも十階建ての建物すら珍しいその地方都市では、雪にまみれた街を見下ろすなどという経験はしたことがなかったのです。そう思うと僕は、今のこの状況がとても貴重なものような気がしてきました。それで多少 迷いつつも、僕の足は新宿NSビルに向かっていきました
社員入り口からホールに入りエレベーターで最上階へ行きます。気分を高揚させつつ 『展望所はあっちだな』 と心持ち早足でそこに向かいました。そして……
「真っ白」
まばゆい眼下の光景に心を奪われます。
僕はそのまばゆさにしばらく心を開放していました。
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その後NSビルから予備校へ。雪を払いながらロビーに入ると、サトーとばったり出くわします。サトーは
「腹減ったからアッシュドゥに行こう」
と言いました。僕は『せっかく早く出てきたのに、これじゃジムモリソン男たちと変わんないよな』と思いつつ、OKしたのです。
※アッシュドゥ=代々木駅前の牛丼屋。牛丼を「ビーフボウル」と称し、牛皿を「ビーフプレート」と称していた店※
明日また会える
アッシュドゥで昼御飯を食べていた僕のところに、あのイケメンミズキが現れました。
「ツノダ(コロマロの本名)てめえふざけんな!」
「え?俺が何かした?」
「よりによってアッシュドゥはないだろう?」
「いや、だって美味しいし」
「どれだけ探したと思ってるんだよ!こっちにこい」
「いや、待ってくれ!まだ半分も食べてないよー」
「いいから来るんだよ!」
僕はイケメンミズキに引きずられて店を出ました。その間、サトーのやつは
「いいぞ~!なんか解らんがミズキもっとやれ~!」
なんて囃し立ててやがります。
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小田急線の長い踏切につかまると、ミズキの苛立ちはマックスになりました。
「ここは普通ウエンド(ウェンディーズ)だろうよ!」
「いやあ、たまには・・・」
「アッシュドゥに気が付いた俺に感謝しろよ」
ミズキに引きずられつつ予備校につき、ロビーに入ると、そこにはジムモリソン男がいました。そしてやつの隣には・・・
「こんにちは」
そこにNONがいたのです。
あのセンター試験の日の面影のままに。
つづく